建築基準法は建物の用途に関する最低の基準を定めることにより、国民の生命、健康および財産の保護を図ることを目的としています。
制限シリーズはまだ続きます。今度は建物の制限です。建物を好き勝手に作ってしまうとお互いが迷惑をすることになり、都市の環境が悪化することになります。そうならないために建築基準法で建物や敷地、構造、設備などを規制しています。
建築基準法には日本全国どこでも適用される単体規定と、原則として都市計画区域と準都市計画区域の中だけで適用される集団規定があります。
用途制限
建築基準法では用途に関する制限が設けられています。用途制限というのは、それぞれの用途地域に合うような建物を建てるために、建築できる建物とできない建物を具体的に定めたものです。
なお、1つの敷地が異なる用途地域にまたがる場合は、敷地の過半を占める用途地域の制限を受けます。面積の大きいほうの用途地域の規制を受けるということですね。
住居系 | 商業系 | 工業系 | ||||||||||
第一種低層住居専用地域 | 第二種低層住居専用地域 | 第一種中高層住居専用地域 | 第二種中高層住居専用地域 | 第一種住居地域 | 第二種住居地域 | 準住居地域 | 近隣商業地域 | 商業地域 | 準工業地域 | 工業地域 | 工業専用地域 | |
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保育所、診療所、公衆浴場、神社、寺院、教会等、巡査派出所 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
住宅、図書館、老人ホーム | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × |
幼稚園、小学校、中学校、高等学校 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × | × |
大学、高等専門学校、病院 | × | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × | × |
ホテル、旅館 | × | × | × | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | × | × |
〇…建築できる ×…建築できない |
この表は、細かく覚えなくても大丈夫です。住居系の用途地域の中で制限が一番厳しいのは、第1種低層住居専用地域になります。保育所、診療所はどこでも建てられるんだな、工場は住宅街には建てられないんだなくらいで大丈夫です。
道路
道路についてです。道路も建築基準法で制限されています。理由は交通や防火等が理由です。もし家が火事になっても道路がなければ消防車が入ってこれませんね。
建築基準法上の道路
建築基準法では道路を次のように定義しています。
- 幅員が4m以上の道路
- 道路法による道路
- 都市計画法等による道路
- 建築基準法が施行された時、すでに存在した道
- 幅員が4m未満の道路で、建築基準法が施行された時、すでに存在し特定行政庁から指定を受けている道路(2項道路)
幅員は(ふくいん)は道幅のことです。とりあえず4m以上未満だけ覚えておきます。中心線から2mずつになります。法律は片側車線を最低でも2mにしておきたいようです。
2項道路というのは、建築基準法42条2項に書いてあるので、通称として呼ばれています。4m未満の道路でも建築基準法施行以前から建物が建ち、道路として使われていた場合は、特定行政庁の指定により道路とみなされます。
セットバック
2項道路に面する敷地に新しく建物を建てるときは、道路の中心線から2m下がった部分が道路の境界とみなされるので、敷地の一部を道路として提供し、建築しなければなりません。この後退した部分をセットバックといいます。
図では幅員3mで中心線から片側1.5mになるので、2mまでにはあと0.5m足りません。その部分がセットバックになり、新しく建物を建てる場合、0.5m後退しなければならないことになります。
セットバックによって使える敷地が減るので、単純に土地の価格や、この後登場する建ぺい率、容積率などに影響を与えます。
接道義務
建築物の敷地は、原則として幅員4m以上の道路に2m以上接しなければなりません。これを接道義務といいます。これは避難経路の確保や、消防車など緊急車両の出入りという、防災上の観点からだと言われています。なので道路に接していない土地は、建築物の建築ができません。
建ぺい率
建ぺい率とは、敷地面積に対する建築物の建築面積の割合のことです。
建ぺい率の上限を定めることで敷地に空地ができ、火災時の延焼を防ぎ、また日照や風通しがよくなります。
建ぺい率の計算式
建ぺい率の計算方法は、このようになります。
建ぺい率(%)=建築面積÷敷地面積×100
特に難しくはないですね、建築面積を敷地面積で割ればいいだけです。例えば、建築物の面積が50㎡、敷地の面性が100㎡とすると、建ぺい率は、50÷100×100=50%になります。
建ぺい率の異なる地域の建ぺい率の計算
建ぺい率の異なる地域にまたがって建物が建っている場合の建ぺい率は、加重平均で求めます。
建ぺい率70%の地域 | 建ぺい率40%の地域 |
---|---|
敷地面積 300㎡ | 敷地面積 200㎡ |
上の図のような敷地があるとして、計算式は
300㎡×70%+200㎡×40%=250㎡ となります。
この敷地に建てることができる建物の最大面積は250㎡になります。異なる地域にまたがった建ぺい率は、
250㎡÷500㎡×100で50%になります。
建ぺい率の最高限度
建ぺい率は用途地域ごとに最高限度が決まっています。
用途地域 | 指定建ぺい率 |
---|---|
第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 第一種中高層住居専用地域 第二種中高層住居専用地域 工業専用地域 | 30、40、50、60 |
第一種住居地域 第二種住居地域 準住居地域 準工業地域 | 50、60、80 |
近隣商業地域 | 60、80 |
商業地域 | 80 |
工業地域 | 50、60 |
この表もすべて覚える必要はありません。とりあえず商業地域は80%の1つだけというのはおさえておきます。
建ぺい率の緩和措置
次のいずれかに該当する場合は、建ぺい率が緩和されます。
① 防火地域内にある耐火建築物 +10%
② 特定行政庁が指定する角地の建築物 +10%
③ ①,②を満たす場合(防火地域内にある耐火建築物で特定行政庁が指定する角地の建築物) +20%
建ぺい率の緩和は制限が条件に該当すれば緩くなるということですね。
建ぺい率の制限がないもの
次のいずれかに該当する場合には、建ぺい率の制限が適用されません。建ぺい率100%で建物を建てることができます。
・建ぺい率の限度が80%と決められた地域内で、防火地域内にある耐火建築物
・巡査派出所、公衆便所など
建築物の敷地が建ぺい率の異なる地域にわたる場合
建築物の敷地が、建ぺい率の異なる地域にわたる場合は、それぞれの地域の建ぺい率に、その敷地部分の面積を、敷地全体で割ったものを乗じた、それぞれの数値の合計が、その敷地全体の建ぺい率の限度になります。
容積率
容積率とは建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合です。建築物の延べ面積というのは、言い換えれば各階の床面積の合計のことで、例えば2階建ての一軒家があるとすると、1階部分の面積と2階部分の面積の合計が、延べ面積になります。
なぜ容積率なんてものが必要なのかというと、容積率が大きいということは、大きな建物だということが言え、大きな建物ということは、人の出入りが激しいといえるので、建物までの道路などが混雑してしまう可能性があります。そこで容積率の上限を設定することによって、都市計画の状況に合った環境を整備することを目的として使われます。
容積率の計算式
容積率の計算方法は、このようになります。
容積率(%)=建築物の延べ面積÷敷地面積×100
建築物の延べ面積を敷地面積で割ればいいだけです。例えば、建築物の延べ面積が150㎡、敷地の面性が100㎡とすると、容積率は、150÷100×100=150%になります。
容積率の異なる地域の容積率の計算
容積率の異なる地域にまたがって建物が建っている場合の容積率は、加重平均で求めます。建ぺい率の時と同じ計算方法です。
容積率150%の地域 | 容積率100%の地域 |
---|---|
敷地面積 300㎡ | 敷地面積 200㎡ |
上の図のような敷地があるとして、計算式は
300㎡×150%+200㎡×100%=650㎡ となります。
この敷地に建てることができる建物の延べ面積は650㎡になります。異なる地域にまたがった容積率は、650㎡÷500㎡×100で130%になります。
指定容積率
容積率の限度は、都市計画で用途地域ごとに指定されたものとされます。
用途地域 | 容積率の最高限度(%) |
---|---|
第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 | 50、60、80、100、150、200 |
第一種住居地域 第二種住居地域 第一種中高層住居専用地域 第二種中高層住居専用地域 準住居地域 近隣商業地域 準工業地域 | 100、150、200、300、400、500 |
商業地域 | 200~1,300 |
工業地域 工業専用地域 | 100、150、200、300、400 |
この表は暗記する必要はありません。住宅街は上限を小さく、商業施設などは上限を大きくしている程度にザックリと覚えておいてください。
前面道路の幅員による容積率の制限
前面道路の幅員が12m未満の場合、当該敷地にある建築物の容積率に制限を受けます。また、前面道路の幅員が12m以上の場合は指定容積率が適用されます。
前面道路の幅員が12m以上 | 指定容積率 |
---|---|
前面道路の幅員が12m未満 | 次のうち小さいほう |
・指定容積率 | |
・前面道路の幅員×4÷10(居住系の用途地域の場合) ・前面道路の幅員×6÷10(居住系以外の用途地域の場合) |
前面道路の幅員が12m未満の場合は、最初に居住系によって10分の4か10分の6に決まり、次にきまった容量と、指定容積率を比較して、小さいほうが選択されることになります。
考え方としてはやはり、敷地に面している道路が狭ければ、そこに建つ建物も小さくしようという考えです。